日帰り手術(流産手術、人工妊娠中絶術)

当院では、流産手術、人工妊娠中絶術の日帰り手術を行っています。手術の方法はほぼ同じですが流産手術に対しては保険診療の適応となり、人工妊娠中絶術に関しては自費診療となります。

MVAシステム(Manual Vacuum Aspiration : 手動吸引法)

MVAシステム(Manual Vacuum Aspiration : 手動吸引法)

当院ではMVAシステムと呼ばれる手動式の吸引用子宮カテーテルを手術に採用しています。WHO(世界保険機関)は2012年から推奨しており、本邦でも令和3年7月に厚労省から関連学会へ推奨の文書がありましたが日本ではまだ導入されていないご施設も多いと思われます。

MVAシステム(Manual Vacuum Aspiration : 手動吸引法)

このシステムの特徴はカテーテルの先がストローのような弾力性のあるポリプロピレンという材質でできており従来使用していた金属のカテーテルに比べて子宮の内膜を傷つけにくく、術後の癒着の軽減などに有用なので次回妊娠への心配は最小限といわれています。他に手術の痛み自体も少なく手術時間も短縮できるようになりました。一般に掻爬手術を複数回行った場合に後の妊娠で前置胎盤などの可能性が上昇すると考えられていますが、MVAの場合には上昇しない可能性が高いと言われています。

当院では1手術セット1回のみの使用になります。従って消毒などして繰り返し使用することはないので器具による感染などのリスクはありません。

流産の原因検索をご希望の患者様には絨毛染色体検査も同時に行えます。全ての原因がわかるわけではありませんが染色体が原因の場合次回妊娠に必要な情報が得られることがあります。

当院では安全上の観点からも、お一人ずつ病状や事情が違うため一日に流れ作業的に多くの手術件数をこなすというやり方は行っていません。

日帰り手術までの流れから術後のご注意まで

  1. 1) 採血
    手術前の採血(血液型、感染症などを調べます)
  2. 2) 絶飲食のお願い
    手術前日の夜10時以降絶食で、術前3時間前から絶飲でお願いしています。
  3. 3) 前処置(超音波検査+子宮頸管拡張)
    まず超音波検査で子宮の大きさや位置、傾き、左右の広がり、子宮筋腫や子宮奇形の有無などを確認します。そして腟式の超音波で子宮の頸管と呼ばれる入り口の部分の長さや方向などを確認します。次に子宮内の感染予防のために腟の中を消毒します。クスコという腟鏡をかけて子宮の入り口を鉗子でつまんで(この時チクっとするかもしれません)少し牽引しながらラミセルという子宮の口をゆっくり開かせる弾力性のある棒を子宮の入り口に挿入してガーゼを1枚腟の中に入れて前処置が終了します。Web等で「これがとっても痛い」と書かれていることもありますが、それはおそらく海藻を原材料とするラミナリア桿と呼ばれる弾力性のない棒状の医療材料のことでこれを使用するご施設では痛みを訴える方も多いです。弾力性のあるラミセルを使用する当院では痛みはほとんどありません。子宮の頸管と呼ばれる入り口の部分の組織はコラーゲンでできていて急速に拡張すると損傷を受けて次回妊娠の時に頸管無力症と言って流早産の原因となりえるため当院では時間をかけて拡張していきます。
  4. 4) 手術(手動吸引法(MVA))
    まず安全に手術を行うために点滴を確保します。そこからゆっくり静脈麻酔をおこなってから始まります。静脈麻酔の量を最少限にするために傍子宮頸管ブロックという局所麻酔も併用して行います。麻酔が効いていることを確認して腟内のガーゼを抜いていき、腟内を再度消毒します。手術はエコーで子宮の様子を見ながら手動吸引法(MVA)を使って行います。この方法で手術を行うと子宮内膜をなるべく傷つけずにすみます。痛みはほとんど感じません。寝ている間に手術が終わっているイメージです。術後には子宮筋腫がある方や子宮の屈曲具合のきつい方などで痛みがある場合もありますが時間とともに軽快していきます。超音波で取り残しがないか確認した上で手術を終了します。手術は約10〜15分程度です。麻酔がよく効いて寝ている間に手術が終わることがほとんどですが効き具合には個人差もあります。
  5. 5) 術後の確認
    リカバリールームで2〜3時間ほど休んでいただいて再度診察ののち問題ないことを確認してご帰宅していただきます。
  6. 6) 再診
    原則翌日(翌日が休診日の場合その翌診療日)、1週間後に再診していただいて子宮の状態を確認します。
  7. 7)手術当日からシャワーは可能ですが、入浴は1週間後の診察で許可が出るまで控えてください。
  8. 8) 術後2週間ほどは出血が続いたり腹痛を認めることがあります。いずれも症状が自然に治っていくことが多いのですが増悪傾向があるなど気になることがあればご連絡ください。
  9. 9) 月経は術後1〜2ヶ月で起こることが多いのですが排卵が起こらずに短期間の月経から始まることもありますし排卵が起こってその後に月経が発来することもありますので性交渉の許可が出ても当面妊娠を望まないのであればなるべく早く避妊を実行することをお勧めしますのでご相談ください。
  10. 10) 次回妊娠を希望する方は1度月経を経てから次の妊娠へ向けて対策をとりましょう。
  11. 11) ご帰宅後注意する症状としては2日以上高熱が続く、出血や痛みが日に日に増えてくる、手術後5週間ほど月経がこないなどの症状があればご連絡ください。

手術後に起こり得る合併症

  1. 1)子宮穿孔
    妊娠中の子宮はとても柔らかいために手術の際に子宮に穴があくと入院管理が必要なことがあります。今まで当院で起こったことはありませんがこの手術を行う上で最も注意の必要な合併症です。
  2. 2)遺残
    手術の際穿孔に注意しすぎると一部組織が子宮内に残ってしまい再度手術が必要な場合があります。他にも子宮の奇形や子宮筋腫などがあると手術の際にカテーテルが子宮全域わたって適切に入り込むことができず遺残が起こる可能性があります。
  3. 3)癒着
    手術を行うと組織が癒着することがあります。しかし当院で行なっているMVAでの手術は掻爬法に比べて癒着しにくいと言われています。
  4. 4)感染
    子宮の中に感染が起こると高熱が出ることがあります。その予防のために術後にお渡ししたお薬は必ず服用してください。もともとクラミジアに感染している場合には子宮内や腹膜炎と言ってお腹の中に感染が及ぶことがあるのでクラミジア感染がご心配な方はお申し出ください。
  5. 5)出血
    出血が多い場合には輸血が必要になることがありますのであらかじめ血液型などを調べておく必要があります。

費用について

【人工妊娠中絶術】

・12週未満まで
15万円〜17万円

よくある質問

1) 痛みはありますか? 

麻酔薬や痛み止めのお薬を使用して手術を行いますので痛みはほぼ感じなかったという方がほとんどです。この手術は局所麻酔のみかあるいは麻酔無しで行っているご施設様もあるようですが当院では局所麻酔薬と静脈麻酔薬の併用で行います。

2) 時間はどのくらいかかるの?

手術後の確認のための超音波検査などを含めて手術時間はおよそ10〜15分程度ですが手術室に入室したらまず子宮の位置や形の確認を超音波検査で確認して点滴を確保し、機械の準備を行なって麻酔を行い、十分に麻酔が効いてから手術に移ります。手術後も手術が終わってから目が覚めて意識がはっきりするまでお部屋の移動はできません。したがって手術室への入室から退室までは約30〜40分程度はかかりますのでご了承ください。

3) 一人で帰れますか?

可能ですがもしできれば付き添いの方がいらっしゃった方が安全です。手術が終わってからリカバリー室でお帰りまでお付添の方はお一人のみ一緒に過ごしていただけます。麻酔が覚めた後に再度超音波で子宮の状態を確認してお帰りいただきます。

4) 次の日は安静が必要ですか?

手術の日は術後そのまま帰宅して休養してください。翌日(翌診療日)はできれば診察がありますのでお仕事や学校はお休みしていただいた方が良いかと考えますが日常生活の範囲で動くことは差し支えありません。

流産手術について

1)流産の頻度は?

ヒトの場合妊娠すると約15%に流産が起きるとされています。

2)不育症とは?

特に2回以上臨床的流産(超音波検査で胎嚢が見えたあとの流産)もしくは死産の既往がある場合「不育症」と診断されます。原因はいろいろですが不育症カップルの約85%の方が出産可能というデータもあります。

3)流産の原因を調べることはできますか?

全ての原因をお調べすることはできませんが今回の妊娠で染色体の変化がなかったか調べることは可能です。流産絨毛染色体検査(POC)といいますが手術で取り出した絨毛組織(赤ちゃんになる組織)を提出して約4週間ほど培養して染色体を調べます。もし染色体の数の異常が見つかった場合にはそれが原因と推定されます。多くの場合たまたま起こった病気で再発の心配はありません。異常が見つからなかった場合には母体側に原因がないか検索する必要があります。あるいは通常の染色体検査よりさらに詳しい検査(SNPマイクロアレイなど)をおこなうと異常が見つかる場合もあります。そして数に異常は見つからなくても形や構造に異常が見つかった場合にはご夫婦のどちらかに染色体の構造異常がみつかる可能性があり、ご夫婦での染色体検査をおすすめする場合があります。絨毛染色体検査はあらかじめ手術前に同意書が必要です。本検査は事前に準備が必要なので手術が終わってからでは同意があっても検査を行なえませんのでよくご夫婦で相談されることをすすめます。検査は保険適応外となります。

4)手術は決まった曜日や時間指定がありますか?

いいえ決まった曜日や時間指定はありません。患者様のご都合になるべく沿った日時に手術が行えるように調整させていただきます。

5)手術後の注意点は?

手術当日から1週間は入浴と自転車は控えてください。シャワーは手術当日から大丈夫です。帰宅して次の診察までに腹痛がひどくなったり、出血が多くなったりした場合はご連絡ください。

6)病理検査については?

流産手術の際には病理検査を行います。流産の原因を検索する検査ではありませんがこの検査は採取した組織が妊娠成分を含んでいたかどうかの確認と癌などの細胞がなかったかを確認する目的があります。もし妊娠成分がなかったとしたら子宮外妊娠なども考えないと行けませんし、癌や胞状奇胎の細胞が万一見つかった場合にはすぐに治療を要する場合もあります。

参考文献
1. 杉浦真弓「エビデンスに基づいた不育症・習慣流産の診療」金芳堂.2017.8.1
2. European Society of Human Reproduction and Embryology (ESHRE) Early Pregnancy Guideline Development Group. Recurrent Pregnancy Loss Guideline. 2017. 11.

人工妊娠中絶について

1)人工妊娠中絶を受けると親に知られますか?

いいえ 自費手術なので保険の請求によって親御さんに知られることはありませんし、こちらからご連絡を取ることもありません。

2)妊娠何週まで手術可能ですか?

当院では妊娠11週6日目までとさせていただいています。妊娠12週を越えると手術の方法や手続きが全く変わってきます。いかなるクリニックや病院であっても法律で定められていて死産書の提出や火葬による埋葬が義務付けられています。

3)手術は決まった曜日や時間指定がありますか?

いいえ 決まった曜日や時間指定はありません。患者様のご都合になるべく沿った日時に手術が行えるように調整させていただきます。

4)手術後の注意点は?

手術当日から1週間は入浴と自転車は控えてください。シャワーは手術当日から大丈夫です。帰宅して次の診察までに腹痛がひどくなったり、出血が多くなった場合はご連絡ください。

5)手術の後しばらくの間避妊したい場合は?

人工妊娠中絶後当面は妊娠を希望しない方は手術終了間もなくから低用量ピルなどのホルモン療法を開始することも可能ですので希望があればお申し出てください。